妄想老人日記

連載第49回:セルフパブリッシングは出版の可能性を広げたか
ヘリベ マルヲ のプロフィール写真書いた人:ヘリベ マルヲ
2017.
02.21Tue

セルフパブリッシングは出版の可能性を広げたか

日本語でセルフパブリッシングの情報交換をする場が事実上、存在しない(Amazonのフォーラムはあるが機能しているとはいえない)のは、初心者にとって残念なことです。出版の一手法でしかないので、やりたければ他人に訊かずに自分で調べればいい、とはいえるかもしれません。それでも権威とされる情報源が業者の利権がからんだひとたちばかりでは、誘導される先は必ずしも、読者や著者/出版者を利するとは思えません。Amazonの提供する情報は公平ですが、ローカライズが不充分な翻訳文でいささかわかりにくい。そもそも彼らは書店のひとつでしかありません。

なぜ書いたり出版したりするかといえば読書のためです。さまざまないい本を読みたい。セルフパブリッシングは従来の手法よりも出版の可能性を広げるかもしれません。しかし残念ながら現状は、従来出版の欠点を助長する方向で発展しています。読者と作家ではなく業者の都合が、質よりも効率が、地方よりも中央が、読むことよりも世渡りが優先されます。セルフパブリッシング時代の到来で、当レーベルが夢みていた出版のありようは、読書の多様性、作家の自主性、魅力や資質を引き出す編集、地方で読んだり書いたりすること、時間をかけた本づくり、独自の価値や視点、「ひとそれぞれの事情」に寄り添うこと……などなど、だったのですが。実際にはそれらとは真逆のものだけが尊重され、そこになじめないものは、ただ排除されるばかりか上から目線でばかにされたり、ひどいときには権威者やその取り巻きから恫喝されたりします。

最近はあえて流れに抗おうとは思わなくなりました。つまらない世の中とはかかわりたくない。そのような場で受け入れられたところで嬉しくありません。書店のランキング表示を眺めて、あの場に好きな本や自著を並べたくなるひとがどれだけいるでしょうか。もちろん、大人の事情を使いこなして世の中をわたるひとたちも、ストアのアルゴリズムやそれに対する攻略法も、別にまちがったことではありません。そういう商売に単にわたしがなじめないだけです。人脈やアルゴリズムを相手にした世渡りゲームを好むひとがいるように、それとは真逆を好むにすぎません。読書や出版には、ひとそれぞれの自由があっていい。それだけの話です。かたや世間で尊重され、かたや赦されないという違いはありますが、それだってどう感じるかは自由です。好きなようにやればいい。

他人がどうでもよくなったのは、気にするだけの価値があるひとにあまり出逢えていないせいです。自分の出版活動には現状、少しも納得できていませんが、それでも何か上を見て向上したいと思ったときに、目標にしたい相手がなかなか見つからないのも事実です。「こんな活動をしたい」とか「こんなものをつくりたい」とか思わせてくれる存在がほとんど見当たらない。これは批判ではなく単なる個人的事情です。人格OverDriveはきわめて私的な出版レーベルですから。しかしその事情を突き詰めていけば、近いものを実現できているのは結局のところ、少数読者に向けた出版をおこなう余力のある大出版社だけだったりします。編集の重要性がセルフパブリッシングではないがしろにされがちという事情もあり、むしろ可能性を広げる余地があるのは従来出版かもしれない、とさえ考えます。少なくとも彼らには条件がうまく噛み合えばいい本をつくれる実績があります。これまで読んできた本、わたしという人間を形づくった本は彼らの商品ですしね。


ヘリベ マルヲ のプロフィール写真

ヘリベ マルヲ

(へりべ まるを、1975年6月18日 - )作家。略称、ヘリマル。独立系出版レーベル「人格OverDrive」から代表作『悪魔とドライヴ』をはじめとする魔術的な作品群を刊行。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにてウェブディレクター・佐々木大輔氏から「注目の『セルフパブリッシング狂』10人」に選ばれた。