妄想老人日記

連載第52回:伝え広める
ヘリベ マルヲ のプロフィール写真書いた人:ヘリベ マルヲ
2017.
07.02Sun

伝え広める

youtubeのサジェストは優秀で、訪れるたびに好みの音楽を教えてくれます。googleのサービスだけあってアルゴリズムが興味・関心を重視するおかげです。しかしコンテンツがなければ出逢いもありません。音楽好きの「目利き」による違法アップロードのおかげだと気づきました。よく見られる「気に入ったら買ってアーティストを支援して!」という文言は、権利者からすれば盗っ人猛々しいというところでしょう。しかし実際youtubeで全曲試聴して気に入ったら、購入したりSpotify(月額980円は安すぎます。五千円くらいでもいいので権利者にちゃんと還元してほしいです)で聴いたりしています。違法行為をしてまで魅力を伝え広めようとする目利きがいなければ、それらの音楽との出逢いはありませんでした。

映画は最近iTunesで観ています。ハッピーオフされるまではHuluでも愉しんでいました。ここでの作品との出逢いにはふたつの道筋があります。まずトップ画面のUIと公式の「目利き」が機能しています。それから、映画についてはtwitterや個人ブログが作品を発掘し、周知するのに役立っています。つまり公式・非公式の「目利き」がともに機能しているのです。音楽の場合だとまずはBandcampがあり、youtubeの「非公式目利き」による違法アップロードがあり、アルゴリズムが適切に縁を結びます。映画だとiTunesの公式目利きがあり、個人ブログやソーシャルの評判があって、二時間を視聴に費やそうと決めます。ところがKindleにあるのは小遣い目当てのアフィリエイトと、経済効率のみのランキングや機械的なサジェストだけです。営利企業なのだから効率と利益を最大化するのは当然です。しかし消費者は機械ではありません。一時的には莫大な利益を稼ぎ出していても、人間性を軽視しつづければ、顧客はいずれ離れていくでしょう。

映画と音楽では話題作が自宅で愉しめるようになるまでが早い、というのもあります。音楽は発売日当日にiTunesやSpotifyで愉しめます。過去作の発掘は個人の目利きがやってくれて、入口は違法アップロードであっても、その先の導線はiTunesやSpotifyにつながっています。品物が揃っていて買い逃しがないからです。映画はtwitterで知り、個人ブログの評判で期待を高め、存在を忘れないうちにiTunesでレンタルできます。ところが本では購入へ至る導線がそもそも充分に考えられていません。目利きのいる書店に気軽に通えるのであれば、「そこでたまたま出逢った本を買う」という体験も含めて読書を愉しみます。残念ながら魅力ある棚づくりをしている店は少ないし、あっても遠くて通えません。ここ数年の早川書房(の新刊)であれば、Facebookページで知って関心をもち、twitterや個人ブログで評判を調べて、Kindleですぐに買って読めます。しかしそのような例は稀です。

読書においてストアが出逢いの場として機能しない理由は、人間性軽視のアルゴリズムだけではありません。「公式・非公式ともに『目利き』が機能していない(もしくは存在しない)」「ほしいときに買えない(あるいはそもそも存在しない)」の2点も大きいです。後者は権利が絡んでひと筋縄ではいかないでしょう。消費者として行動できるのは後者です。われわれ自身が「目利き」になって購入への導線をつくらなければなりません。よい本は積極的に伝え広めましょう。Bandcampのような支援コミュニティをつくるのもひとつの方法です。「目利き」とは独自の視点です。ひとそれぞれの事情に立って、その視点から物事を捉える営みです。この国は現状、だれもが同じでなければいけないという強迫観念に支配されています。アルゴリズムは消費者が望むように発展します。変えるなら今がそのときです。


ヘリベ マルヲ のプロフィール写真

ヘリベ マルヲ

(へりべ まるを、1975年6月18日 - )作家。略称、ヘリマル。独立系出版レーベル「人格OverDrive」から代表作『悪魔とドライヴ』をはじめとする魔術的な作品群を刊行。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにてウェブディレクター・佐々木大輔氏から「注目の『セルフパブリッシング狂』10人」に選ばれた。