妄想老人日記

連載第38回:『悪魔とドライヴ』印刷版を正式リリースします
ヘリベ マルヲ のプロフィール写真書いた人:ヘリベ マルヲ
2017.
05.03Wed

『悪魔とドライヴ』印刷版を正式リリースします

試験的に出した旧版とは異なり、日本のISBNを取得してInDesignで版下をつくりなおしました。CreateSpaceではPDFを逆順にすることで右綴じの本もつくれます(参考:「InDesignから逆丁PDFを書き出す」)。バーコードは表紙の版下をPDFで提出し、裏表紙にバーコード用の空白を含めることで正しく配置されます。ただし彼らが挿入するバーコードは日本のものとは形状が異なり、価格を示すバーコードがISBNバーコードの右に並びます。価格が円相場で変動するため、定価ではなく価格1000円と表記したのですが、それとは別に価格表記がついてしまう。日本で通用するか微妙な仕上がりになりました。また裏表紙ではなく本来の表紙を商品画像とするようサポートに頼む必要があります。英語ができないので珍妙なメールを送りました。「あなたのいいたいことを理解しました」と迅速に対応してくれました。末尾に添えられた「I hope you have a great day ahead!」との文言に、日本のサービスに勝ち目はないな、と感じ入りました。本来英語にしか対応していないはずのサービスでさえ、日本語という極めてローカルな個別事情にこれほど寄り添ってくれるのですから。

単にePubやオンデマンド本を作成するだけならBCCKSのほうが優れています(ただしCreateSpaceと違って折の制約で決まったページ数しか選べない)が、それはただモノを作成するサービスでしかありません。一方CreateSpaceやKDP Printではひとたび出版すれば全世界のAmazonやeBay、その他さまざまなストアに並びます。本当かどうかわかりませんが図書館にまで納本すると謳われています(CreateSpaceが提供する無料ISBNを利用した場合)。このように流通までデザインしたサービスは日本では実現不可能でしょう。商売として実現するだけの旨味が何もない。電子書籍であれば画面表示とクリック率のゲームでしかないのにひきかえ、印刷版を読者のもとへ届けるとなれば物流網を構築する必要があり、労力もコストも制度上の障壁も大きく異なります。ヘルプやランディングページこそ奇妙なほど整備されつつありますが、おそらくKDP PrintもCreateSpaceも日本には来ないでしょう(この予言が覆される日が一刻も早く訪れるのを夢みています)。サポートに問い合わせると「co.jpでもcomでも印刷版は出さないでください」「PODを使いたければ出版社を通してください」と回答されました。

BCCKSと同じでCreateSpaceに集客力はありません。旧版の販売履歴を見ると欧州のAmazon経由で売れています。米国ではAmazonではなくeBayのような外部業者で一冊。装画のくみた柑さんは海外で評価されていますが、主に米国での人気なのでそこから読まれたわけでもなさそうです。おそらく最初のだれかが買ったことにより関連書籍として表示され、欧州在住の日本人に少しずつ読まれているのでしょう。米国に口座を開設するまでは小切手しか受取手段がなく、換金には5000円もかかるのでこれまでの利益は受け取れていません。KDP Printが日本に来ることの最大のメリットは商品配送時間の短縮に加えて、報酬受取が日本の口座に一本化されることです。海外送金の受取は新生銀行で試しましたがswiftのみでは受け付けてもらえませんでした。三菱東京UFJ銀行カリフォルニアアカウント・プログラムを利用するしかないようです。オンデマンド本は一般的な印刷本よりどうしても割高になります。旧版は海外でしか売れていません。今回も大差ないでしょうから価格を抑えるためにも最低価格にしました。直接CreateSpaceから購入されたらわずかな利益が生じますが、日本のAmazonで売れても一銭にもなりません。

また日本のAmazonは集客力こそ巨大であるものの、機械的なアルゴリズムに終始してキュレーションが機能しておらず、あてになりません(問題は自動化ではなく精度の低さです)。とりわけ独立出版物は埋もれさせられるか、低品質のアマチュア作品と関連づけられやすく、客筋のマッチングに深刻な不具合があるのが現状です。この問題に対しては同じAmazonでも本家とco.jpとで認識にかなりのひらきがあるようです。「B&Nは書店を減らし、アマゾンは増やす」というEBOOK2.0 Magazineの記事によれば、米Amazonの実店舗では「店舗ごとのオペレーションの自由度(おそらく地域・消費者に最適化)」を高め「独立系小書店の復活現象に注目」するといった動きがあるそうです(アルゴリズムによるランキングをそのまま面陳しただけという話も耳にしました。どちらが正しい情報なのかはわかりません)。しかしながらco.jpでは精度の低いアルゴリズムに依存するばかりで、むしろ「大衆消費社会の幻想」から脱却しきれていないかに見えます。思うに人材が足りなすぎるのでしょう。本来やれるはずのさまざまなサービスを日本では機能限定版でしかリリースできないのも、ローカライズ以前に人的資源が障壁になっているのではないかと思われます。

自分のサイトで売る方法を考えています。調べたかぎりで現実的な方法として海外で行われているのは、注文と支払いは自サイト(WordPressとPayPal)で受け、著者割引価格でCreateSpaceで購入して、届け先を客の住所に設定するというものでした。なるほどそれなら実現可能です。印税のために海外口座を設ける必要もありません。その方法ならBCCKSでもやれるんじゃないか、とも一瞬考えました。配送に二週間かかる海外のサービスをわざわざ利用する必要はないんじゃないか。しかし最小限の作業フローで理想に近いものを実現するならBCCKSは選択肢から外れます。実際の購入には直販を利用してもらうにしても、Amazonに商品が並んでいることは信用を得るのにも役立ちます。現実的な解決法としてはAmazonインスタントストアでしょう。電子版と異なり、印刷版ならインスタントストアで扱えます。流通に手数料を取られるので利益は目減りしますし、それ以前に利益を受けとる海外口座を開設しなければなりませんが、直販を実現できるのは大きなメリットです。

本を置いてくれるリアル店舗を募集しようかとも考えています。最初の数冊は見本として無料で著者から店へ進呈、というか頼み込んで置いてもらい、その数冊が捌けたら次からは実費のみこちらがもらう。もしくは店がオンラインで注文して転売するのでもいい。「価格」(定価ではない)を1000円と記載したので100円くらいは店の取り分になるはず。CreateSpaceから買ってもらえればこちらにもわずかながら利益が生じます。実行するかどうかは別として、電子版ではできなかったさまざまな展開が考えられます。名刺代わりに配ることができるのも印刷版の利点です。

日本のAmazonにはまだ印刷版が表示されていません。引き上げたはずの旧版は外部業者が値上げしています。これもまたアルゴリズム至上主義の弊害です。


ヘリベ マルヲ のプロフィール写真

ヘリベ マルヲ

(へりべ まるを、1975年6月18日 - )作家。略称、ヘリマル。独立系出版レーベル「人格OverDrive」から代表作『悪魔とドライヴ』をはじめとする魔術的な作品群を刊行。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにてウェブディレクター・佐々木大輔氏から「注目の『セルフパブリッシング狂』10人」に選ばれた。